私が葬儀業界に入った頃は、まだ自宅での葬儀が結構ありました。いまほど葬儀式場がなかったので、自宅や町内/自治会館での葬儀が半分以上くらいありました。たま葬儀斎場での葬儀があると「今日はラクだ~」と思ったものです。ほかにお寺のお堂やお寺さん所有の式場でも行なわれます。 自宅で葬儀をやるとなると、すべて一から用意しないといけません。まずタンスやテレビ、ソファーなどを動かす(外に出す)ことから始まります。部屋のなかを広くしたら幕を張り巡らします。コンセントの位置を確認しながら夏ならエアコンを隠さないようにし、冬ならストーブやガス管の位置を意識しながら幕を張ります。闇雲に幕を張ればいいというものじゃないのです。 家での葬儀だとまず座布団が足りません。お皿もコップも座卓も足らないので、料理屋さんに持って来てもらいます。料理屋さんは料理のほかにこういった小物も持ってきてくれます。 町内会館で葬儀をやると、近所の奥さんたちが集まってワイワイと“炊き出し”を行なったものです。煮物を作ったりおむすびを作り、お新香を持ち寄ったりします。「葬儀屋さんも食べな」なんて言われて、仕事の合間に美味しくいただきました。このような炊き出しの光景はもう何年も見ていません。時代は変わりました。 式場でやる葬儀はハッキリ言ってラクです。幕は張らなくて済むし道具も揃っています。家具も動かしません。でもそれだけ頭も大して使いません。 自宅葬や町内会館葬は大変ではありますが、それだけやり甲斐もあります。人の動線も考えないとですし、雨など降ろうものならテントも張って会葬の方が濡れないようにしないといけません。夜は暗くなるのでライトも点けます。やることてんこ盛り、お通夜ギリギリまで何かしら作業しています。いまの若い葬儀屋の子なんかはそんなの出来るのかな・・と思います。だって経験が無いのだから。私などは貴重な経験をさせていただいたのです。 今日もどこかで葬儀が行なわれています。どうか事故もなく、無事に出棺してもらえたらと思います。
誰も書かなかった葬儀のお話 『自宅葬編』
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