ある人が亡くなったとします。私たちが打ち合わせに伺う時、まず預かるのが写真とハンコです。 祭壇には遺影を飾るので、その原稿となる写真を預かります。引き延ばしますので、なるべく大きく映っていて、故人のお人柄が出ているものを選ぶようアドバイスしています。 「表情は良いけど背景がイマイチ」 「着ているものが気に入らない」 などでしたら、背景も服装も変えることが出来ます。もっと言うと、表情はこの写真で服は別の写真のものを・・なんて場合も合わせることが可能です。 私が業界に入った頃は、遺影は白黒写真が主流でしたが、いまは圧倒的にカラー写真です。白黒を頼む方は年に何人もいらっしゃいません。編集技術も随分進んだと思います。
写真のほかにハンコを預かります。これは役所での書類提出の際に必要なので、一旦お借りして提出が済み次第お返しします。借りるのはいわゆる認め印で、シャチハタは不可です。朱肉を使うものでも、銀行印や実印はお断りしています。勿論お返ししますが、実印を預かったりして万が一なにかあったら大変です。 「佐藤」さんや「鈴木」さんなど比較的多い名字なら私どもも持っているのですが、珍しい名字でしたら借りるほかありません。基本的には喪主様(または申請者)のハンコが必要となります。 ハンコは大抵パッと出されますが、写真選びは皆様苦労される場合が多いです。 「これが良いと思うけど、こちらも捨てがたい・・」 このケースですね。選べる枚数が幾つかあればまだ良いのですが、少ない枚数のなかから選ばないといけない場合、時間にも限りがあるのである程度妥協していただきます。 「この一枚!」 とご家族が自信満々に出される写真は、どれも素晴しい顔をされています。故人様に直接会った事がないケースがほとんどですが、そういう素晴しい表情の写真に出会うと嬉しいものです。 「ああ、こういう人生を送られていたんだな」 と若輩者ながら思います。 写真がきっかけで思い出す話もあるはずです。できればデジカメに撮ったままでなくプリント出力しておくことをおすすめします。そうすると「この写真で」と家族に言っておけます。「遺影の写真なんか用意しておきたくない」と思うかもしれませんが、悩むのは本人ではなく残った家族なのです。 旅行したら一枚、お花見したら一枚、どこか出かけたら一枚気合い?の入った一枚を撮っておくだけです。数打てば当たります(笑)。数がないから困るのです。 私の父はそば屋の職人で、仕事中の写真なんか皆無でした。たまたま当時の“写るんです”のフィルムが余っていたので、まだ元気だった母と並ばせて撮った写真が遺影となりました。母と並んで撮るなんてほとんどなかったのですが、「いいからいいから」と二人並ばせた写真がちょっと照れた感じでとても良かった。後年、病気になってそう長くないだろうと分かった時に、兄たちに見せたら「これはいい!」となりました。 いい写真のコツは撮れたら撮るのではなく、“必ず撮る”こと。時にはなだめやすかしも必要でしょう。でも絶対に撮って下さい。そのために普段から撮る練習というか、撮るクセを付けるのがいいですね。 あと・・葬儀に来た方は写真しか見ません。慌てん坊の会葬者さんは、看板すらほとんど見ないで受付を済ませ、いざ焼香となって正面の写真を見たら「違う!」となり、さきほど受付で出した香典を返してもらい、隣の式場へそそくさと行かれます。私の見解では、写真と供花(自分が注文したお花がどこに置かれているか)をまずご覧になると思います。 たかが写真、されど写真・・なのです。 http://livedoor.blogimg.jp/funeral_servi…/…/5/a/5a193127.jpg
誰も書かなかった葬儀のお話・・『写真とハンコ』編